こんにちは、株式会社ゼニタの服部でございます。本日は、歩行とロコモティブシンドロームについてお話をさせて頂きます。

 以前より歩く速度が遅くなったと感じることはありませんか?

速度が遅くなると、まず筋力の低下を思いつきます。筋力の低下だけでなく、心が落ち込んでいても、歩行速度は落ちます。しかし、それだけではないことが最近の研究で明らかにされています。

高齢者では、歩行速度が低下すると、認知症の発症リスクが増加することがわかってきました。(土井ら, 理学療法学Supplement.2017)。また、もともと歩行速度が速い人ほどそのリスクが低いことも報告されています。(Ruth A. et al, Journal of the American Geriatrics Society.2018) 

信号機は、交通量などを加味して時間が設定されており、一般的には青が点滅するまでの間に毎秒約1メートルの速度で横断歩道を渡りきれるように計算されています。65~69歳の男性の平均値は1秒間に約1・4メートル、85歳の男性で約1・1メートルといわれているので、時間内に横断歩道を渡りきれなければ、同世代より歩行スピードが遅いと考えられます。

もし、以前は楽に横断歩道を渡れていたのに、信号が赤になるまでに渡りきれなくなったなら要注意です。安全に注意を払いつつ、目的地までの道のりを思い描きながら”歩く”という行為は、脳内で高度な情報処理が必要となります。したがって脳内の異変は歩く行為に出やすいため、認知機能が低下すると歩行が遅くなるのです。また、会話をしながら歩くと速度が遅くなるのも、脳が”歩くこと”と、”会話”の二つを同時に行うことが難しくなっている証拠です。認知機能の低下が更に進んでいる可能性があります。

 歩行速度から分かるのはそれだけではありません。
もともと運動機能の低下は筋肉の老化などが原因で、認知機能とは無関係だと思われてきました。しかし、これらの研究で「歩行と認知機能」には深いつながりがあることが明らかになりました。脳内でどこかが詰まったり、血流が悪くなるなどの原因で歩幅は狭くなるといわれています。

自分では今までと同じ速さで歩いているつもりでも、信号の青が点滅するまでに横断歩道を渡りきれない、いつもの道を歩くのに時間がかかるようになった、などの問題が起きたら認知機能の低下により歩幅が狭くなっているのかもしれません。これまでも歩行速度の遅い高齢者は、同世代で歩行速度の速い人よりも余命が短い傾向があるといわれてきました。私たちが普段当たり前に行っている、この“歩く”という行動は健康上の問題を表わすサインとなっています。

歩行速度は、歩行能力を簡単に判断できる指標です。他にも、転倒リスクや寿命の予測などにも活用できるといわれています。歩行速度は「距離÷時間」で求められます。例えば「10mを20秒で歩いた」とすれば、歩行速度は「10÷20=0.5」、1秒あたり0.5m歩くということになるので「歩行速度=0.5m/秒」となります。距離は5mまたは10mでの測定が一般的です。

千種さわやかクリニック通所リハビリテーションでは体力測定として5m歩行速度を計測しています。5m歩行テストで分かることは、横断歩道などの移動の能力があるかを判断することができます。
横断歩道を渡り終える早さは「1m/秒以上」とされています。つまり、5m歩行テストであれば、「5秒」より遅いものは横断歩行が渡りきれないと判断できます。(村永 信吾 高齢者の運動機能と理学療法 PTジャーナル2009.10)また、6.2秒以上(0.806m/秒)転倒リスクが高くなります。(大田尾 浩 要介護高齢者における一年間の転倒予測因子 第50回日本理学療法学術大会)

1年間で歩行速度が1.0秒(0.25m/秒)低下転倒リスクが1.51倍高まります。(大田尾 浩 要介護高齢者における一年間の転倒予測因子 第50回日本理学療法学術大会)更に、1年間で歩行速度が0.75秒(0.15m/秒)低下すると転倒リスクが高くなります。(Lien Quach, M.P.H, M.S(2011)The Non-linear Relationship between Gait Speed and Falls: The MOBILIZE Boston Study)

 

歩行速度を落とさないための、筋力トレーニングをご紹介します。

大腿四頭筋は歩行中にしっかりと膝を固定させるために使う筋肉です。この筋が弱いと歩行中に膝などが自分の体重に耐えられなくなり膝が曲がってしまいまともに歩けなくなってしまいます。一般的にこの筋の力が自分の体重の3割を切ると歩けなくなる可能性が高くなると言われています。

トレーニングの方法は、椅子に座り膝の曲げ伸ばしをする事です。足首を90度に曲げて膝を伸ばし、その状態を3~5秒保ちその後ゆっくりと足を下ろします。太ももに力が入っていることを感じられると思います。力が入っているという事は大腿四頭筋が収縮しているという事です。この運動を左右各30回ほど朝、昼、晩と行ってみてください。

次は、下腿三頭筋です。この筋が弱化していると前方への蹴り出しが不十分になり歩幅が小さくなります。よって歩行速度も遅くなるのです。トレーニングの方法は手すりや壁などに両手でつかまりながら踵上げを行います。反動をつけるのではなくゆっくりと行ってください。こちらも20回ほど朝、昼、晩と行ってみてください。

歩行を改善するためにはこの筋肉以外にも鍛えないといけない筋肉もありますがまずはこの二つの筋肉から始めてみてください。歩行を改善するために必要な事柄については、また別の機会で述べたいと思います。

引用:阿久津邦男、歩行の科学、不味堂出版